今日味新深(No.80:2014/3/31)
2013年にインドを訪問し、現地特殊鋼メーカの訪問見学や有力アナリストとの意見交換をする機会がありました。そこで、直に見聞したインド鉄鋼業の現状をご紹介します。
インドは2012年のGDPは1.84兆ドルと日本の約30%で、世界第10位の経済大国に成長しています。中国に次ぐ巨大市場として注目されていますが、日本の対印直接投資は2012年には28億ドルに達し、2005年に比べ実に10倍の伸びとなっており、日本企業の活動もますます活発になっています。現在のインドはまだ所得水準は低く、一人当たりGDPは約1,500ドル(2012年)で日本の高度成長前夜の1955年頃に過ぎませんが、首都デリーでは地下鉄や道路の整備や、郊外の集合住宅やショッピングモールの建設が進み、行き交う人々にも活気があって発展期に入った国の力強さを感じさせます。こうした成長力を日本の産業や経済に結びつけ、ともに力強く発展していくことが望まれています。
インドと言えば鉄鉱石の生産国として昔から有名ですが、鉄鋼生産でも2004年から急成長し、2013年には粗鋼生産8千万tを超え、中、日、米に次ぐ世界4位になりました。それでも需要の増大には追いつけず2009年から鋼材輸入国になっています。そのため、製鉄所の新増設プロジェクトが多数ありますが、用地の確保や環境問題で必ずしも順調ではありません。現地アナリストによるとグリーンフィールドプロジェクト(新規開発)が困難な中、ブラウンフィールドプロジェクト(既存工業用地の再開発)が今後は主になるだろうとの見方です。限られた工場で生産性を上げる日本流のモノづくりの考え方が生かせそうです。
インドの鉄鋼メーカと言えばSAIL、Tataが老舗ですが、近年のインド鉄鋼業の発展は民間企業が主に牽引しており大企業のEssar、Jindalのほか、中小規模のメーカも続いています。現在インドには大小1,200社を超える鉄鋼メーカがありますが、インドの鉄鋼業や産業全般の発展とともに淘汰が進み、力量あるメーカに集約されていくものと思われます。
機械産業の発展を支えるものは特殊鋼ですが、インドはまだ特殊鋼生産は少なく、粗鋼生産に占める合金鋼とステンレスの比率はまだ5%程度ですが生産量の増加テンポは速く、粗鋼全体の約1.5倍のスピードで増えています。実は、合金鋼(ステンレスを含む)の約3/4が大企業以外で生産されていて、特殊鋼分野では中小規模のメーカの果たす役割が大きいのが特徴です。
今回、ある民間電炉メーカへの訪問機会がありましたが、同社も特殊鋼に力を入れるメーカの一つです。工場に入ると、整理整頓された工場という印象を受けました。ビレットのチャージ管理が行われていることはもちろん、製品や半製品の識別マーキングのための塗装作業や製品梱包も丁寧です。品質や電力原単位などの実績はグラフ化され、運転室横の掲示板に見える化までされていました。インドではスズキ、トヨタ、日産、ホンダなど日系自動車メーカや部品メーカの活動が活発化しています。同社でみせていただいた製造指示書の鋼種にもJIS規格名が割と多かったのですが、現地では高規格の特殊鋼生産が課題になっていることが肌で感じられました。
そのため、インド側は日本企業との提携に強い関心をもっています。同社の社長は「日本流のものづくりを学び、取り入れたい」と話してくれましたし、現地アナリストによれば、インドには多様なメーカやニーズが存在しているので、日本企業の戦略に合わせた様々なスタイルの提携が可能だろうということです。
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