今日味新深(No.77:2013/11/21)
2012年における世界の太陽電池導入量は約30 GWであり、そのうちの9割近くが変換効率の高い結晶シリコン太陽電池でした。日本国内でも2011年7月から太陽電池による発電電力の全量買い取り制度が施行され、2012年度は前年度2倍の約2 GWが設置されたと予想されます。
最近、筆者も自宅の屋根に3.5 kWの結晶シリコン太陽電池を設置し、小規模ながら発電を始めました。結晶シリコン太陽電池の変換効率は、セルの温度が上昇すると低下することが以前から知られていますが、この低下効果が意外に大きいことを実際に設置して実感しました。
太陽電池の変換効率が温度上昇により低下する現象は、半導体の結晶格子間隔(格子定数)が伸びることでバンドギャップ(禁制帯幅)が狭くなることに起因しており、本質的に避けられないものです。バンドギャップが狭くなると、出力電圧が低下してしまいます。薄膜系材料に比べてバンドギャップが1.12 eV(電子ボルト)と小さい結晶シリコンでは出力電圧低下の効果が大きく、温度が10℃上昇すると変換効率は4~5 %低下してしまいます。
太陽電池パネルは、真夏の炎天下では70~80℃に達すると予想されるため、25℃での変換効率(定格値)に比べて20~25%も出力が低下することになります。逆に外気温が低い冬季は定格値よりも10%近く出力が上がります。結晶シリコン太陽電池は、案外寒冷地に向いているのかも知れません。
太陽電池パネルはコスト低減を第一に設計されており、冷却・放熱効果を考慮された製品はまだ見受けられません。今後、この機能は効率的な発電に必要な機能になってくるでしょう。パネルを水冷する試みは、これまでも試験的に行われていました。例えば、太陽電池パネルにミストを間歇噴霧して冷却する方法や、保水性セラミックスをパネル背面に取り付けて噴霧することにより気化熱で冷却する方法が検討されました。ただし、このような機能を付加すると、設備コストのアップやメンテナンス費用が高くなり、投資効果が課題になります。
このように太陽電池では、パネル構成部材や構造の工夫などによってメンテナンスフリーな冷却・放熱手段が開発されることが望まれています。太陽電池の本格的な普及はこれからですが、材料メーカーが寄与できる部分がまだまだありそうです。弊社では引き続き、技術・市場の動向を注視していきます。