今日味新深(No.41:2011/12/5)
携帯電話やノートパソコンをはじめとする種々のモバイル機器には、リチウムイオン二次電池(LIB)に代表される高性能蓄電池が使用されています。LIBはエネルギー密度の点で有利であることから、最近では電気自動車(EV)の駆動用電源や電力不足(計画停電)対策に有効な定置用蓄電池への用途が広がっています。
LIBは日本のメーカー(ソニー)が世界で初めて実用化に成功した蓄電池です。日本の工業所有権は日本や米国において圧倒的な比率を占めています。そのため1991年に市場投入されて以来、しばらくの間は日本製LIBが世界市場を独占していました。しかし、その後東アジアの新興国(韓国、台湾、中国)の電池メーカーがLIB事業に参入するようになり、日本製LIBは2000年頃から世界シェアを落としはじめ、基本特許の有効年数が過ぎたこともあり、現在は世界シェア:50%まで低下しています。シェアはメーカー間の差別化の実態を反映しており、差別化の源泉は「価格」と「性能」にあると考えられます。
弊社ではこの点を考慮しながら、世界シェア低下の原因を調査しました。
その結果、日本メーカーの価格競争力に原因があることがわかりました。
まず日本では産業の基盤である政策や法律の面でハンデキャップがあります。すなわち優遇税制や政府援助が欠如しています。
例えば、諸外国の法人所得税を比較すると、日本は40.69%ですが、中国は25%、韓国は24.2%と低く、最も安いシンガポールは17%です。東アジア諸国では、これに加えて様々な優遇税制を実施しています。これらは設備投資の環境において大きな差となっています。また減価償却制度では、日本は機械設備の減価償却が5年ですが、東アジア諸国では加速償却が認められており、シンガポールでは2年償却が可能です。
さらに、日本では消防法、建築確認等の厳しい法規制が工場の新規建設の妨げとなったり、海外に比べて厳しいリチウムの保安規制が安全対策など設備コストのアップをもたらしています。さらに、為替(円高)など種々の要因がコスト競争力を低下させています。
日本メーカーがとってきた事業戦略にも問題がありました。
日本メーカーは価格よりも技術(性能・品質)で差別化を図る戦略をとってきましたが、廉価で粗悪な外国製品を市場から排除する仕組みを作れなかったため、この戦略は成功しませんでした。そして、「性能」よりも「価格」がシェアを主導する状況が出来上がりました。
この流れに乗って、国内に大きな市場を有する中国メーカーや政府援助の厚い韓国メーカーは、より一層の低価格戦略で世界市場の獲得を図っています。民生用の小型LIBと異なり、車載用・定置用の大型LIBでは、信頼性や安全性が重視されるため、現状は日本製LIBが高い世界シェアを有していますが、このままでは民生用LIBと同様に世界シェアを落としていくと予想されます。
多くの日本人は、「良い製品を作れば売れる」との信念から、技術開発に注力してきました。しかし、これだけでは事業として成功しないことがこの調査からわかります。液晶やDVDも同じ状況です。現在、産業はグローバル化しています。日本が世界を相手に勝ち残っていくためには、日本メーカーは技術開発とともに新たな事業戦略と知財戦略を立てるとともに、日本政府も主導的に有効な政策を打ち出し、企業と政府が連係しながら、新たな勝ちパターンを構築できるビジネスモデルを設計していくことが必須となっています。