今日味新深(No.32:2011/07/05)
2010年度、弊社は(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より「高性能蓄電池の産業動向の基礎調査」を受託し、各関連企業へのヒアリング調査により、高性能蓄電池分野で日本の優位性をどう保っていくのか、ブラックボックス化できる技術がどこにあるのか、ナショナルプロジェクトとして何を望んでいるのか、などについて調査を行いました。
この調査の中で行われた世界的なオープンイノベーション環境と日本企業の産業競争力との関係についての議論を一部紹介します。
半導体、液晶パネル、光ディスク、太陽電池など、かつて日本企業が開発に成功して高い市場シェアを握っていた製品が、市場の拡大時に急速にシェアを落とした例が多数あります。
例えば、半導体市場においては、日本企業が先進国相手の高機能製品の開発を続けている間に台湾企業は量産技術の低コスト化に注力し、コスト競争力で市場シェアを伸ばしてきました。また、韓国企業は、日本から人材を集め日本の成熟した技術を吸収するとともに、政府の大規模投資補助金等の支援により市場シェアを伸ばしてきました。
一方では製造装置メーカーが、開発した製造装置をノウハウと一緒に販売することにより、技術が流出してコモディティ化したとも考えられています。
携帯電話やパソコン用などの民生用小型Liイオン二次電池の市場も同様に、韓国企業に急追されている状況です。さらに、国内に大規模市場をもつ中国企業が参入してくることにより、日本企業の市場シェアの低下が進むと予想されています。現在、日本企業が技術開発に注力している電気自動車や電力貯蔵用の大型Liイオン二次電池の市場でも、同様の現象が起こることが懸念されています。
日本企業は、「技術開発に多額の投資を行い、要素技術では諸外国に劣っていない。」と言いますが、開発品の市場シェアは、市場の拡大に伴い急速に低下し、イノベーションの成果や知的財産権が競争力に寄与していない状態です。
欧米の企業の中には、開発が難しい部分をブラックボックス化し他社の模倣を防ぎ、そこで利益を得るとともに、その技術が使われる市場に知的財産権や標準化で規制をかけることにより市場をコントロールしながら、生産領域はオープンにして中国や台湾に委託することで市場シェアを伸ばすという戦略で成功した例があります。
このようなオープン分業のビジネスモデルとして、インテル、クアルコム、シスコ、IBM、ノキア、アップル、メディアテック、TSMC、サムスン、フォックスコン、華為などの企業が注目されています。
世界規模のオープンイノベーション環境で高い市場シェアを獲得するためには、知的財産権を行使したり、守るべき技術をブラックボックス化することが重要と考えられます。